レット症候群 さくらんぼ会

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レット症候群Q&A

病気の症状について

てんかんについて

Q

てんかんのおこる年齢、
頻度はありますか?

MECP2遺伝子の変異によっておこり、女児の典型例と言われる患者さまのてんかんを持つ頻度は約60%と報告されています。典型例の患者さまで、てんかんを発症する年齢は平均4歳(2~5歳)で、2歳前におこることは稀ですし、10歳以後の最初のてんかん発作も稀です。てんかんの発症が2歳前で早い時はCDKL5FOXG1などMECP2以外の遺伝子変異によるレット様症候群(Rett-like disorder)を考えた方が良いと言われています。

Q

てんかんには、どのような
けいれんがありますか?

あらゆる種類のけいれん発作が出ることが報告されています。多いのは、意識障害を伴う焦点発作(旧分類で複雑部分発作と言っていた)、全般性強直間代発作、全般性強直発作、間代発作、ミオクローヌス、欠神発作などです。一人の患者さまが複数の発作を持つことも稀ではありません。てんかん発作は、初めは、抗けいれん薬を3剤以上(小児では2剤以上)の抗けいれん薬で発作が止まらない難治てんかんであることが多いですが、年齢と共に徐々に発作が減り、軽症化する傾向があります。2017年に国際抗てんかん連盟が発作分類法を大幅改定しました。

Q

治療薬はありますか?

焦点発作と全般発作の双方が出現するため、種々の発作に有効な薬が使用され、バルプロ酸やラモトリギンがよく使用されています。焦点発作では、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン(日本では未承認)、レベチラセタム、ゾニサミド、トピラマート、フェニトイン、ラコサミドなどが使用されています。全般発作では、バルプロ酸、クロバザム、アセタゾラミド、ラモトリギンなどが使用されています。特殊治療として、ケトン食、迷走神経刺激術(VNS)があります。よく治医と相談することが大事ですし、スマホ(SNS)などで録画した動画は診断および治療の参考になります。

Q

てんかんと似た症状が
あると聞いたのですが・・・。

てんかん発作と間違えられ易い発作、動作の鑑別が重要です。代表的な誤診されやすい2つを解説します。 呼吸異常 息こらえ、交互におこる過呼吸と無呼吸、深い努力呼吸、異常に早くて浅い呼吸などがあります。一瞬ぼーっとなることもあるので発作との鑑別が難しいときがあります。 血管運動反射と自律神経異常 急に不機嫌になったり、手足に冷汗が出たり、顔色が蒼白になったり、瞳孔が開いたり、動きが止まる動作があります。親や養育者がてんかんと思っていても、実際はてんかん発作ではないことが5~6割にあたると報告されています。入院して、ビデオ脳波同時記録などで鑑別を要することがあります。過剰に、抗けいれん薬を増量して、日中の眠気などがないように配慮することが必要です。

睡眠障害について

Q

睡眠障害とは何ですか?

オーストラリアの人口ベースの質問票を使用した経時的な研究では、80%以上に睡眠の問題があったと報告されています(一般小児では18~37%)。睡眠障害の種類は、夜間の笑い(58%)、歯ぎしり(55%)、夜間の叫び(35%)、夜間のてんかん発作(26%)となっています。夜間の無呼吸が睡眠を妨げることも知られています。また、昼間の過眠が(77%)と多いことも特徴の一つです。

Q

レット症候群患者の睡眠に
特徴はありますか?

健常のお子さまが4歳頃から昼寝をあまりしなくなるのに対して、レット児は、年齢を重ねるにつれて昼間の過眠が長くなり、年長児になっても1日の睡眠時間は長いままであったと報告されています。レット児は、自分の脳内の松果体という場所でつくられるメラトニン(内因性メラトニンという)分泌が未熟で不十分なので、概日リズム(がいじつリズムと発音)を整える環境の整備が重要と言われています。昼間に光を浴びて活動することは、メラトニンの分泌・調整に重要なことがわかっています。メラトニンは日本では医薬品として認可されていませんが、現在、自閉症で治験が進んでおり2~3年後には薬として認可される可能性があります。久留米では1.5㎎~6㎎の間で使用しております。メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(商品名:ロゼレム)が医薬品として認可されており、使用されることもあります。また、稀にオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(商品名:ベルソムラ)を使用することもあります。

整形外科的問題(骨折、側弯など)について

Q

レット症候群と骨折にはどのような
関係がありますか?

骨密度の低下は、20歳以下のレット症候群の74%に認められるとの報告があります。骨密度の低下に伴い、骨折の危険が増大します。オーストラリアの大規模な調査では、骨折の発生は同年齢の一般的な人口の4倍近くに相当し、レット症候群の患者の3分の1(35%)は少なくとも1回は骨折を経験し、40%は15歳までに骨折を経験することが報告されています。

Q

レット症候群患者は
なぜ骨折しやすいのですか?

骨密度だけでなく、骨ミネラル含量、骨量が有意に減少し、骨サイズが健常児より10%低下し、加齢とともに筋肉量、徐脂肪組織量が低下することも関与しています。また、痛みに関する感覚の異常もあり、骨折に気づかれにくく、軽微な外力で骨折すること、骨折により痛みをもたらし、移動および生活の質を著しく損なう可能性があるとされ、2016年に、Amanda等により、ガイドラインが作成されています。

Q

どのような患者さまに多く見られますか?

低体重、低栄養、Ca摂取量の低下、運動機能低下などが報告され、歩行可能な患者さまは、そうでない患者さまより骨密度が高いことが知られています。遺伝子型はR270X、R168X、R255X、T158Mで骨折が多く、思春期の発来が遅れている方や、抗てんかん薬を内服し、特に2剤以上内服している方(小児期は薬剤抵抗性、以前の難治てんかん)では骨折のリスクが2倍高いと言われています。また、バルプロ酸内服患者は、骨折のリスクが3倍高いとされていますが、バルプロ酸はレット症候群のてんかん発作に効果が高い良い薬なので、主治医とご相談下さい。

Q

どういう検査を受けると良いですか?

画像検査ではDEXAスキャン、レントゲン撮影等を1~2年毎に受けること、血液検査では、血清Ca、ビタミンDなどの骨マーカーを測定することが推奨されています。

Q

予防策はありますか?

日光浴や、立位保持の練習を行い、筋力・体重を維持すること、カルシウム摂取量が十分でなければ、カルシウム製剤を内服することが重要です。特に活性型ビタミンDが低値(75nmol/L)であれば、内服すること、定期的に骨密度を測定することが推奨されています。

Q

どのような治療がありますか?

活性型ビタミンD,カルシウム製剤以外に、近年は、ビスフォスフォネート(商品名:フォサマック、ボナロン)などで骨折が有意に減少したという報告がありますが、エビデンスがまだ不十分で、今後の検討が期待されます。

Q

側弯・脊柱変形とは何ですか?

5~6歳から脊柱変形が始まり、18歳頃まで増悪すると報告されています。その後、進行は遅くなりますが、成人になって悪化することもあります。76例の検討で、脊柱変形の割合は5歳以下で15%、21歳以上で80%に達すると報告があります。X線検査からCobb角(コブ角と呼ぶ)70°以上で心肺機能、消化管機能に異常が出るため、手術(脊柱広範囲固定術)が必要と言われています。補装具による保存療法で進行が予防できるという報告もあり、日本では、「プレイリーくん」がよく用いられています。

呼吸障害について

Q

呼吸障害には、どのようなものが
ありますが?

息こらえ、交互におこる過呼吸と無呼吸、深い努力呼吸、異常に早くて浅い呼吸などがあり、これらの呼吸異常はレット症候群の補助診断(必ずあるわけではないが頻度が高い)の1つに入れられています。呼吸異常は主に起きている覚醒時におこりますが、24時間連続呼吸のモニターでは睡眠中に軽度ではあるが呼吸異常が認められたという報告もあります。ほとんどが、生命に危険を及ぼすことはないと言われていますが、慢性的に酸素が欠乏し、1時間に15回以上血中酸素飽和度が低下する場合は、酸素投与が有効とされています。睡眠中であっても、頻回に無呼吸がある患者さまでは2相性の気道陽圧装置(BiPAP)が効果を発揮すると言われています。

歯科・口腔問題について

Q

レット症候群患者の口腔問題には
どのようなものがありますか?

レット症候群に特有で先天性の歯の異常はないと言われています。しかし、本症候群では、歯ぎしり、歯と口腔の外傷、流涎、歯肉炎、およびう蝕(むし歯)、歯周病、歯列不正、歯肉増生が多いと言われています。歯ぎしりはレット症候群で最も多くみられる歯科的症状です。

Q

どのような予防策がありますか?

寝かせる、横抱き等で姿勢を安定させることが大事です。無理せずに徐々に慣れさせ、歯磨きは小刻みに歯ブラシを動かし、歯面のプラークを除去します。歯と歯の間の清掃が特に重要で、デンタルフロス、歯間ブラシなどを使用すると良いです。口腔内のケアは誤嚥、肺炎などの気道感染の予防にも繋がるため重要です。

便秘・消化管運動異常について

Q

消化機能問題には、どのようなものが
ありますか?

レット症候群における消化管機能や栄養の問題に関しては、摂食障害(44%)、消化管蠕動運動障害(92%)、食道では異常な波状運動パターン、食物排出の遅延、緩み、胃食道逆流(32%)、胃では胃蠕動運動の低下と弛緩、咀嚼や嚥下の困難(81%)、便秘(75%)、体重不足もしくは肥満(47%)が高頻度にみられます。他に空気嚥下がみられ、腹部の膨らみ(50%)や張りをおこすことがあります。

Q

便秘の対処法はありますか?

便秘の原因として、身体運動をしないこと、筋緊張が低いこと、不適切な水分摂取、薬物の影響(特に抗てんかん薬)、側弯、排泄に伴う痛みと不快感などが挙げられます。具体的な対処法としては水分摂取を増やすこと、食物繊維の多い食品を増やす、下剤効果のある食品(ドライフルーツ・カボチャ・大豆・ナッツなど)を加える、便秘を促進する食品(ご飯・リンゴジュース・にんじんなど)を控えるなど食事を工夫することが重要です。薬剤としては整腸剤(商品名:ビオフェルミン・ラックビー・ミヤBMなど)、大腸刺激性便秘薬(商品名:テレミンソフト坐薬・センノシド・ラキソベロンなど)、便の水分量を増やす便秘薬(商品名:酸化マグネシウム・マグミットなど)、グリセリン浣腸などを適宜使用します。また大建中湯、六君子湯などの漢方薬もよく使用されています。

リハビリテーションについて

Q

レット症候群に効果的な
リハビリはありますか?

医学的治療と並行して、運動障害、言語障害などの障害を改善、支援する活動を言います。レット症候群に特別なリハビリはありませんが、脳性まひに対するリハビリを参考に行われています。基本的な姿勢保持・歩行機能に対しては、理学療法(Physical therapy: PT), 日常生活動作には作業療法(Occupational therapy: OT)、コミュニケーションには言語聴覚療法(Speech language hearing therapy: ST)など3分野があります。日本のアンケート調査では、地域差がありますが、1週間か2週間に1回、PT,OTの治療を受け、月に2回ほどSTの指導を受ける患者さまが多く見られました。

今後期待される治療について

Q

今後はどのような治療が期待されますか?

2017のNature Review Neurologyでは、1966年のオーストリアの小児神経科医のレット先生の最初の報告以来、50年以上が経過しましたが、4,000以上の医学論文が発表され、25以上の治験が開始・進行中、最も病態生理がわかった発達障害であると認識されています。基礎研究から治療へ、臨床研究から治療へなどが行われています。インスリン様成長因子(IGF-1)、NNZ-2566 (IGF-1の3つのアミノ酸を含むトリペプチド類似体)、デキストロメトロファン(非選択的セロトニン再取り込み抑制作用とNMDA型グルタミン酸再取り込み阻害作用)、三環系抗うつ薬のデシプラミン、多発性硬化症の治療薬として使用され、BDNFの発現を上昇させるフィンゴリモド、ミトコンドリアに作用して抗酸化作用を示すEPI-743, その他、メチル化、アセチル化を調節する機構の修復、分子レベルでの治療、遺伝子治療などが紹介されています。久留米大学では、高次脳疾患研究所・小児科との共同研究で、産学官医療連携室の協力の元、神経症状改善薬として日本で発見された神経ペプチドのグレリンを用いた研究を推進しています。

社会福祉資源について

レット症候群の患者さまは、運動障害と知的障害をもっておられ、また多くの方にてんかんがあるので、医療関係医者のみでなく、親御さま、養育者の方も知っておく必要があります。現在、毎年の変更もあり、地域差も少しあるため市町村などの自治体の申請窓口で確認することが重要です。

Q

どのような医療助成がありますか?

子ども医療費助成 子ども医療費助成制度(乳幼児医療など)。自治体が決定している助成制度なので、市役所や区役所、町役場で申請します。各自治体が、小児の医療費の自己負担分の一部、または全額を負担する制度です。 小児慢性特定疾患医療制度 2014年まで、小児慢性特定疾病医療助成と呼ばれていました。レット症候群はこの中に含まれているが、2015年1月から改訂されました。18歳までが支援対象ですが、20歳まで延長可能です。重症でも2分の1負担。訪問看護なども助成対象です。申請は保健所で、診断書は都道府県知事が指定した指定医に限定されています。 障害児医療制度 心身障害児・者が医療を受ける際、医療保険の自己負担分を助成するものです。対象は身体障碍者手帳1級・2級もしくは、療育手帳Aの患者、Bの場合は障害者の条件があります。需給には所得制限があります。 難治性疾患(難病) 厚生労働省が決めた用語で、発病の機構が明らかでなく、治療法が確立しておらず、稀少な疾病であって、長期の療養を必要とするものと定義されています。レット症候群はこれに入っています。 自立支援医療(精神通院医療) てんかんも入っており、レット症候群ではてんかんを有する場合に適応があります。通院医療にかかる10%が自己負担になります。受給には所得制限があります。

Q

どのような手帳制度がありますか?

身体障害者手帳 身体障害者福祉法に定める身体上の障害(肢体不自由、視覚障害など)により、障害者手帳制度があります。レット症候群は肢体不自由により申請することが多いようです。手帳により受けることが可能な制度は、手帳の等級(1~6級)で異なりますが、福祉機器や装具の交付等、税関係(所得税、住民税、自動車税等)の控除および減免、JRやバスなどの公共交通機関の割引などがあげられます。 療育手帳 児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害者であると判定された児(者)に対して交付される手帳です。手帳を所有することにより受けやすくなる援助措置は、特別児童扶養手当、国税、地方税の諸控除および減免、公営住宅の優先入居等があげられます。程度は重度(A)とその他(B)に区分されます。申請は、各市町村の役所(役場)になります。 精神障害者保健福祉手帳 精神障害の状態にある児・者が各種の福祉制度上の支援、援助を受けられることを目的にしています。手帳があれば、税の控除、減免がメリットです。ガイドヘルパー、移動支援事業の利用が可能になります。申請は、市区役所・町役場の担当窓口です。診断書作成には、精神保健指定医か、その他精神障害の診断、または治療に従事する医師による所定の診断書が必要です。現在は、主治医として携わっている場合、小児科医でも記載可能になりました。 障害基礎年金 障害者手帳1級または2級に相当する方が、20歳になったときに受給権が発生します。申請は市区役所、町役場の国民年金窓口や年金事務所などで、所定の診断書が必要です。現在は、患者さまが小さい頃からの主治医であり、資格をもっていれば小児神経科医師でも書類作成が可能になりました。

参考図書

Q

もっと詳しく知りたい場合、
おすすめの文献はありますか?

キャシー・ハンター(著)、日本レット症候群(訳)「レット症候群ハンドブックII」2800円(税抜き)AMAZONで購入可、2013年発刊 レット症候群 診療ガイドブック 青天目 信、伊藤雅之 編著.大阪大学出版会、2015年発刊 稀少てんかんの診療指針 日本てんか学会「編」1-16 Rett症候群.松石豊次郎、頁90-93、診断と治療社 2017年発刊